【出雲国風土記】比和神社(比和社)|主祭神・伊邪那美命を祀る古社|大原郡・雲南市加茂町

2026年9月23日水曜日

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【出雲国風土記】比和神社(比和社)|伊邪那美命を祀る砂子原の古社|大原郡・雲南市加茂町

島根県雲南市加茂町砂子原に鎮座する比和神社(ひわじんじゃ)

『出雲国風土記』大原郡の神社一覧に記された「比和社」の論社とされ、島根県神社庁では伊邪那美命を主祭神としています。一方、現地に伝わる由緒には大穴牟遅命や猿田彦命の名も見え、江戸時代には「日吉社」と呼ばれていたと伝わります。

谷あいの斜面をまっすぐ上る参道、赤瓦の随神門と拝殿、鹿島神社・葦原神社などの境内社を、現地写真とともに紹介します。

比和神社の赤瓦葺きの拝殿正面
比和神社の拝殿。赤瓦の屋根と木造の向拝が、森に囲まれた境内の正面に建ちます。
目次を開く
  1. 比和神社と『出雲国風土記』
  2. 御祭神と由緒
  3. 境内・現地写真
  4. 地形・立地と神社基本情報
  5. 『出雲国風土記』を読んでみたい方へ
  6. まとめ
  7. アクセス・地図
  8. あわせて読みたい

比和神社と『出雲国風土記』

比和神社を訪ねるうえで最初に確認したいのが、天平5年(733)に完成した『出雲国風土記』大原郡条との関係です。

大原郡の不在神祇官社を列記する箇所には、次の社名が見えます。

「比和社」

現在の比和神社は、この「比和社」に比定される論社の一つとされています。ただし、比和社の比定地にはほかの説もあり、雲南市大東町新庄の鏡神社や、御代神社に合祀された日吉社を候補に挙げる見解もあります。そのため、現在の比和神社だけを唯一の比定社と断定せず、複数ある候補の一社として紹介するのが適切です。

また、比和社は『出雲国風土記』では不在神祇官社の列に記され、平安時代の『延喜式神名帳』には掲載されていません。風土記所載社ではありますが、延喜式内社とは区別する必要があります。

なお、『出雲国風土記』本文に記されているのは社名であり、現在伝わる御祭神や大穴牟遅命の伝承までが風土記本文に載っているわけではありません。

御祭神と由緒

主祭神は伊邪那美命

島根県神社庁は、比和神社の主祭神を伊邪那美命(いざなみのみこと)としています。伊邪那美命は国生み・神生みの神話で知られ、多くの神々を生んだ母神として信仰される神です。比和神社の御神徳には、病気平癒と厄除けが挙げられています。

一方、現地案内資料では、伊邪那美尊に加えて大穴牟遅尊を主祭神、猿田彦命を副祭神とし、合祀社の祭神として天鈿女命を記すものがあります。資料によって祭神表記が異なるため、本記事では島根県神社庁の記載を基本とし、現地資料に残る祭神構成を補足として紹介します。

大穴牟遅命と猿田彦命の伝承

古老の伝承では、大穴牟遅命が各地を巡る途中、この地で猪を追っていた際に猿田彦命が導いたため、両神が当地に祀られたといいます。これは『出雲国風土記』本文の説話ではなく、地域に伝えられてきた後世の伝承です。

日吉社と高麻山城の鬼門守護

江戸時代の地誌『雲陽誌』では、当社は「日吉社」と記されたとされます。棟札にも「日吉山大明神」の名が残り、古伝では近江国坂本から勧請したと伝えられています。

永正15年(1518)には「再立」の記録がありますが、これは創建年ではなく、社殿などが再建された記録と考えられます。それ以前の詳しい沿革は明らかではありません。

中世には高麻山城主・鞍掛氏の崇敬を受け、城の鬼門を守る神として金幣が寄進されたとも伝わります。古代の比和社、中世の城郭守護、近世の日吉信仰が重なって現在の比和神社へ受け継がれてきたことがうかがえます。

また、明治44年(1911)には末社が合祀されたとされますが、末社名には資料ごとに表記の違いが見られるため、詳しい社名は現地資料や神社関係者への確認が必要です。

境内・現地写真

森を背に鎮座する本殿

比和神社本殿を右側から見た大社造の社殿
拝殿の奥に鎮座する本殿。高床の社殿と屋根の千木が印象的です。

拝殿の背後には、木立を背に本殿が鎮座しています。高床の社殿を囲む木柵や大きく張り出した屋根から、出雲地方の神社建築らしい姿を確認できます。

鳥居から始まる上り参道

比和神社の素木の鳥居と斜面へ続く参道
砂子原の集落側に立つ素木の鳥居。右手には由緒案内板があります。

境内入口には、飾りを抑えた素木の鳥居が立っています。鳥居の先には斜面を上る細い参道が続き、奥の木立へ向かって境内の軸線が伸びています。

比和神社の鳥居から随神門へ上る参道と入口周辺
鳥居から随神門へ続く参道。入口付近は道幅が限られるため、車で訪れる際は現地の案内を確認してください。

参道脇の大きな石灯籠

比和神社の参道脇に立つ笠の大きな石灯籠
参道脇に立つ大きな石灯籠。厚みのある笠が目を引きます。

入口近くには、丸みを帯びた笠を持つ大きな石灯籠があります。背後の樹木や斜面と重なり、山裾に鎮座する比和神社の社頭を印象づけています。

石段の先に建つ随神門

比和神社の急な石段と上方に見える随神門
参道の途中から続く石段。上方には随神門が見えます。

参道の後半は、まっすぐ延びる石段になります。段数が多く勾配もあるため、雨天時や落ち葉の多い時期は足元に注意が必要です。

比和神社の赤瓦葺きの随神門と門越しに見える拝殿
石段を上り切った先の随神門。門の正面から拝殿を望めます。

随神門は赤瓦を葺いた木造の門で、左右に随神像を安置する空間が設けられています。門をくぐると拝殿前の境内が開け、参道から社殿へ向かう空間が静かに区切られます。

拝殿内部に掲げられた比和神社の扁額

比和神社拝殿内部の扁額と幣殿へ続く祭壇
拝殿内部。中央上部に「比和神社」の扁額が掲げられています。

拝殿内部には「比和神社」と記した扁額や社旗が掲げられ、奥の幣殿・本殿へ祭祀の空間が続いています。地域の氏神として、現在も丁寧に守られている様子が伝わります。

境内社の鹿島神社

比和神社境内に鎮座する鹿島神社の小社
本殿に向かって左側に祀られる境内社・鹿島神社。

鹿島神社には建御雷神が祀られるとされます。現地資料にはもう一柱の神名も記されていますが、表記の判読に異同があるため、ここでは確認できる範囲にとどめます。

大国主命を祀る葦原神社

比和神社境内に鎮座する葦原神社の木造小社
境内の斜面沿いに鎮座する葦原神社。

葦原神社は大国主命を祀る境内社です。比和神社に伝わる大穴牟遅命の伝承とともに見ると、この地で大国主命への信仰が大切に受け継がれてきたことが分かります。

竹林の前に立つ社日碑

比和神社境内の竹林前に祀られた社日碑
注連縄を掛けて祀られる社日碑。そばには小さな木製の奉納箱があります。

境内には「社日」と刻まれた石碑もあります。社日信仰は土地や農耕に関わる神を祭る信仰として各地に見られ、比和神社でも地域の暮らしに近い祈りが重ねられてきたことを感じさせます。

注連縄を掛けた石祠と小祠

比和神社境内の樹木の根元に祀られた注連縄付きの石祠
境内の樹木の根元に祀られた石祠。注連縄と紙垂が掛けられています。

竹林に接する境内の一角には、自然石を重ねたような石祠が祀られています。祭神や詳しい由来は現地で確認できませんでしたが、注連縄と紙垂が掛けられ、現在も信仰の対象として大切にされています。

比和神社境内奥の小さな鳥居と注連縄を掛けた祭祀場所
境内奥で確認した小さな鳥居と祭祀場所。名称と祭神は確認できませんでした。

小さな鳥居の前にも注連縄と紙垂が掛けられています。現地で名称を確認できなかったため断定はできませんが、本社や境内社だけでなく、こうした小規模な祭祀場所も地域の手で守られています。

地形・立地と神社基本情報

比和神社は、斐伊川水系の赤川へ流れ込む中村川の谷筋に近い、砂子原の山裾に鎮座しています。鳥居から社殿まで参道が斜面を上る配置となっており、集落に面した入口から森に包まれた神域へ入っていく地形がよく分かります。

高麻山城主・鞍掛氏が鬼門の守護神として崇敬したという伝承も、周辺の山地と神社の位置関係を背景に生まれたものと考えられます。ただし、現在の社地が風土記編纂当時から変わらないことを示す確実な資料は、今回確認した範囲ではありません。

比和神社 基本情報

神社名比和神社(ひわじんじゃ)
風土記での社名比和社
所在地〒699-1111 島根県雲南市加茂町砂子原196番地
主祭神伊邪那美命(島根県神社庁の記載)
例祭日10月12日
電話番号公式情報をご確認ください
公式サイト単独の公式サイトは確認できません。島根県神社庁の神社情報をご確認ください
御朱印授与状況は現地または公式情報をご確認ください
駐車場現地案内をご確認ください

『出雲国風土記』を読んでみたい方へ

現代語訳・原文・地図の違いから、初心者にも選びやすい関連書籍7冊を比較しています。

▶ 出雲国風土記を初めて読む人におすすめの本7選

まとめ

雲南市加茂町砂子原の比和神社は、『出雲国風土記』大原郡に記された不在神祇官社「比和社」の論社とされる古社です。

島根県神社庁では伊邪那美命を主祭神としますが、現地資料には大穴牟遅命・猿田彦命なども記され、地域には大穴牟遅命を猿田彦命が導いたという伝承が残ります。また、江戸時代には日吉社と呼ばれ、中世には高麻山城の鬼門を守る神として鞍掛氏の崇敬を受けたと伝えられています。

素木の鳥居から急な石段を上り、随神門をくぐった先には、赤瓦の拝殿と森を背にした本殿が鎮座しています。鹿島神社・葦原神社・社日碑・石祠なども残り、古代の社名だけでなく、各時代に重ねられた地域信仰を現地でたどることができる神社です。

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アクセス・地図

比和神社はJR木次線・加茂中駅から北へ約1.5~1.7kmの場所に鎮座します。参道には傾斜と石段があるため、歩きやすい履物での参拝がおすすめです。

初掲載:2026年9月23日
最終更新:2026年9月23日

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