【出雲国風土記】仁多郡 山野河川海岸通道|船通山に源を発する斐伊川と薬湯の道|仁多郡・奥出雲町
仁多郡の「山・川・通道」を一文で束ねた、風土記屈指の“地勢カタログ”。
船通山(鳥上山)を起点に、斐伊川上流や諸河川、薬草・禽獣、そして各郡国へ通う道筋が列挙されます。
古代人が「どこをどう通り、どこで癒やされたか」まで見えてくる条文です。
概要
| 風土記の条 | 仁多郡 山野河川海岸通道 |
|---|---|
| 主な要素 | 山(鳥上山=船通山ほか)/川(斐伊川上流ほか)/通道(各郡国への往還)/薬湯(温泉) |
| 現在の目安 | 島根県奥出雲町(船通山周辺)〜斐伊川上流域一帯 |
内容紹介
本条は、仁多郡に連なる山々の位置(郡家からの里程)を列挙しつつ、境界(伯耆・備後との堺)や産物(鹽味葛・紫草など)まで添えていきます。
続いて川の章では、鳥上山(船通山)を源とする横田川=斐伊川上流をはじめ、室原川・灰火小川・阿伊川などを挙げ、年魚(あゆ)や麻須(ます)といった水産にも触れます。
とりわけ印象的なのが「通道(かよひぢ)」の記述です。飯石郡・大原郡・伯耆・備後へ通う里程と、道中にある薬湯(温泉)の効能・賑わいを具体的に描き、古代の交通と“癒やし”が一体だったことを伝えます。
「一たび浴すれば身体穆平ぎ、再び濯げば萬の病消除る」――文言は誇張を含みつつも、湯治場として人が集まった光景が、千年以上前からこの地にあったことを想像させます。
山・川・道・温泉。仁多郡の骨格を、そのまま地図に落とせるほど情報が詰まった条文です。
原文(出雲国風土記)
▼ 原文を開く(全文)
鳥上(とりかみ)山。郡家 の 東南 三十五里 なり。伯耆と出雲との 堺 なり。鹽味葛(えびかづら)あり。
室原(むろはら)山。郡家 の 東南 三十六里 なり。備後と出雲との二國 の 堺 なり。鹽味葛あり。
灰(はひ)火(び)山。郡家 の 東南 三十里 なり。
遊託(ゆた)山。郡家 の 正南(まみなみ)三十七里 なり。鹽味葛あり。
御坂(みさか)山。郡家 の 西南 五十三里 なり。卽ち 此の山に 神の御門(みと)あり。故、御坂と云ふ。備後と出雲との堺なり。鹽味葛あり。
志努坂野(しぬざかぬ)。郡家の 西南 三十一里 なり。紫草少しくあり。
玉峰(たまみね)山。郡家 の 東南 一十里 なり。古老の傳へに云へらく、山嶺(みね)に 玉上神(たまのへのかみ)を在せまつる。故、玉峯と云ふ。
城紲野(きずなぬ)。郡家 の 正南 一十里 なり。紫草少しくあり。
大内野(おほうちぬ)。郡家 の 正南 二里 なり。紫草少しくあり。
菅火野山。郡家の 正西 四里 なり。高さ一百二十五丈、周り一十里あり。峯に神社あり。
戀山(したひやま)。郡家 の 正南 二十三里 なり。古老の傳へに云へらく、和爾(わに)(鰐)、阿伊村に坐す神、玉日女命(たまひめのみこと)を戀ひて上り到りき。爾の時、玉日女命 石以て川を塞へまししかば、え會はずして戀ひき。故、戀山と云ふ。
凡そ、諸の山野に在る所の草木は、白頭公(おきなぐさ)・藍漆(やまあゐ)・高本(さはそらし)・玄參(おしくさ)・百合(ゆり)・王不留行(かさくさ)・薺苨(さきくさな)・百部根(ほとづら)・瞿麥(なでしこ)・升麻(とりのあしぐさ)・拔葜(さるとり)・黃精(おほゑみ)・地楡(あやめたむ)・附子(ぶし)・狼牙(こまつなぎ)・離留(りる)・石斛(いはぐすり)・貫衆(おにわらび)・續斷(おにのやがら)・女委(ゑみくさ)・藤・李(すもも)・檜・榲(すぎ)・樫・松・栢(かへ)・栗・柘(つみ)・槻(つき)・蘗(きはだ)・楮(かぢ)。禽獸には則ち 鷹・晨風(はやぶさ)・鳩・山鷄(やまどり)・雉(きじ)・熊・狼・猪(ゐ)・鹿狐・莵・獼猴(さる)・飛鼯(むささび)あり。
橫田川。源は郡家の 東南 三十五里 なる鳥上山より出でて西に流る。謂はゆる斐伊河の上なり。年魚少しくあり。
室原川。源は郡家の 東南 三十六里 なる室原山より出でて北に流る。此は則ち 斐伊大河の上なり。年魚・麻須・魴鱧(むなぎ)等の類あり。
灰火小川。源は灰火山より出でて斐伊河の上に入る。年魚あり。
阿伊川。源は郡家の 正南 三十七里 なる遊託山より出で、北に流れて斐伊河の上に入る。年魚・麻須あり。
阿位川。源は郡家の 西南 五十里 なる御坂山より出で、斐伊河の上に入る。年魚・麻須あり。
比太川。源は郡家の 東南 一十里 なる玉峯山より出でて北に流る。意宇郡の 野城河の上、是なり。年魚あり。
湯野小川。源は玉峯山より出で西に流れて斐伊河の上に入る。
通道(かよひぢ)。飯石郡の堺なる漆仁川の邊に通ふは二十八里なり。卽ち川邊に藥湯あり。一たび浴すれば則ち身体穆平ぎ、再び濯げば則ち萬の病消除る。男も女も、老いたるも少きも、晝夜息まず、駱驛往來ひて、驗を得ずといふことなし。故、俗人、號けて藥湯と云ふ。卽ち正倉あり。
大原郡の堺なる辛谷村に通ふは、一十六里二百三十六歩なり。
伯耆國の日野郡の堺なる阿志毗緣山に通ふは、三十五里一百五十歩なり。常に剗あり。
備後國の惠宗郡の堺なる遊託山に通ふは、三十七里なり。常に剗あり。
同じ惠宗郡の堺なる比市山に通ふは、五十三里なり。常には剗なし。但、政ある時に当りて、權に置くのみ。
郡司 主帳 外大初位下 品治部
大領 外從八位下 蝮部臣
少領 外從八位下 出雲臣
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目安:〒689-5223 島根県仁多郡奥出雲町上萩山 船通山 周辺(鳥上山=船通山のエリア)。
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| 対象エリア | 島根県 仁多郡(奥出雲町周辺) |
|---|---|
| 内容 | 山野・河川・通道(古道)・薬湯(温泉)の記述 |
| 補足 | 現地の比定やルート検討など、気づきがあればコメントで共有歓迎です。 |
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