『出雲国風土記』神々の異称・別名一覧|大穴持命と所造天下大神は同じ神?
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| 『出雲国風土記』に記された神名の違いから、古代出雲の神々の世界をたどる記事の見出し画像です。画像はAI生成による水墨画風イメージです。 |
『出雲国風土記』の神々を調べていると、 同じ神と思われるのに、 本文の場所によって名前が少しずつ違うことがあります。
代表的なのが大穴持命です。
ある場所では「大穴持命」、 ある場所では「所造天下大神」、 さらに「所造天下大神大穴持命」と記されています。
では、これらは別々の神なのでしょうか。
この記事では、 『出雲国風土記』に登場する神々の異称・神号・表記の違いを整理し、 「同一神としてまとめてよいもの」と 「似ているが別神として残した方がよいもの」を分けて紹介します。
① 『出雲国風土記』に登場する神様一覧|本文に現れる神々を整理
→ 本文の神話・地名由来・系譜などに実際に登場する神を整理。
② 『出雲国風土記』399社に残る神々|社名から読み解く古代出雲の信仰
→ 神社条や社名から見えてくる神・神格・信仰の痕跡を整理。
③ 『出雲国風土記』神々の異称・別名一覧|大穴持命と所造天下大神は同じ神?
→ 同じ神の異称・別名・表記違いと、同一神説のある神々を整理。←今回はこの記事
なぜ一柱の神に複数の名前があるのか
古代の神名には、 現在の人名のような「一つの正式名称」だけで考えにくいものがあります。
神そのものの名前だけでなく、 その神の働きや性格を示す尊称、 土地ごとの呼び方、 写本による文字の違いなどが重なっているためです。
そのため、 表記が違うからといって、 すぐに別の神として数えることはできません。
逆に、 名前が似ているからという理由だけで、 すべて同じ神としてまとめてしまうことも危険です。
同一神として整理しやすい異称・表記
| 基本となる神名 | 異称・別表記 | 種類 | 判断 | 考え方 |
|---|---|---|---|---|
| 大穴持命 | 所造天下大神 | 尊称・神号 | 同一扱い | 天下を造った大神という、大穴持命の神格を表した呼称 |
| 大穴持命 | 所造天下大神大穴持命 | 尊称+神名 | 同一扱い | 本文中で尊称と大穴持命の名が連続して記される |
| 大穴持命 | 大神大穴持命 | 尊称を伴う表記 | 同一扱い | 大穴持命に「大神」を付した形 |
| 大穴持命 | 大己貴命 | 神名表記の違い | 同一神系として整理 | 仁多郡布勢郷では「大神大己貴命」と記され、一般にオオナムチ神の表記違いとされる |
| 須佐能袁命 | 神須佐能袁命 | 尊称を伴う表記 | 同一扱い | 「神」を冠した須佐能袁命の表記 |
| 須佐能袁命 | 須佐能乎命・須佐乃袁命など | 文字・写本の違い | 同一扱い | 「袁」「乎」などの文字差による表記揺れ |
| 阿遅須枳高日子命 | 阿遅須伎高日子命 | 文字の違い | 同一扱い | 「枳」「伎」の違い。本文中でも表記が揺れる |
| 天津枳値可美高日子命 | 薦枕志都治値 | 別称 | 同一扱い | 出雲郡漆治郷に登場する同神の別称として整理される |
| 宇乃治比古命 | 宇能治比古命 | 文字の違い | 同一扱い | 写本・校訂による「乃」「能」などの表記差 |
| 枳佐加比売命 | 支佐加比売命 | 文字の違い | 同一扱い | 佐太大神出生説話に登場する女神の表記揺れ |
| 天御梶日女命 | 天御梶比売命 | 日女・比売の違い | 同一扱い | 「日女」「比売」は女神名で見られる表記の違い |
| 綾門日女命 | 綾門比女命 | 日女・比女の違い | 同一扱い | 同じ女神名の表記差として扱う |
大穴持命と「所造天下大神」は同じ神?
結論からいえば、 『出雲国風土記』を読む上では同じ神として整理して問題ありません。
意宇郡では、 「所造天下大神大穴持命」という形で、 尊称と神名が一続きに記された例があります。
つまり、 「所造天下大神」は別の神名というより、 大穴持命が「天下を造った大神」であることを示す称号 と見るのが自然です。
『出雲国風土記』では、 この「所造天下大神」が各地の郷名説話に繰り返し登場します。
国を巡り、 土地を選び、 妻問いをし、 御子神を残していく――。
大穴持命は、 『出雲国風土記』の神々の中でも特に大きな存在として描かれています。
「大神」だけなら全部、大穴持命なのか
ここは注意が必要です。
前後の文章から明らかに大穴持命を指している場合はありますが、 「大神」という語だけを見て、すべて大穴持命と決めることはできません。
「大神」は神名そのものではなく、 神を尊んで呼ぶ語としても使われるからです。
一覧表を作る場合は、 「大神」という文字だけを独立した神名として数えず、 前後の文脈を確認する必要があります。
大穴持命と大己貴命
仁多郡布勢郷では、 「大神大己貴命」という表記が現れます。
一方、同じ仁多郡の別の説話では 「大穴持命」と記されています。
大己貴命と大穴持命は、 オオナムチという同系統の神名表記として広く扱われており、 本ブログの神様一覧でも同一神系として整理します。
大国魂命まで大穴持命と同じ神にしてよい?
ここは分けた方が安全です。
大国魂命は、 名前だけを見ると大国主・大穴持命と非常に近く見えます。
後世の資料では、 大国魂神を大己貴神の別名として扱う例もあります。
しかし『出雲国風土記』意宇郡飯梨郷では、 大国魂命は 「天降り坐し」 と記されています。
このため、 『出雲国風土記』本文を整理するときは、 大国魂命と大穴持命を別神として残す のが安全です。
「他の古典では同じ神とされる」ことと、 「『出雲国風土記』の中で同じ神として描かれている」ことは別問題です。
このブログでは、『出雲国風土記』本文の読みを優先します。
須佐能袁命と神須佐能袁命
こちらは大穴持命の場合より分かりやすく、 同一神として整理してよい表記です。
飯石郡須佐郷では 「神須佐能袁命」と記されます。
一方、 ほかの郡では「須佐能袁命」などの形で登場します。
「神」は敬意を示す語と見ることができ、 別の神を指しているとは考えにくいため、 一覧では一柱にまとめます。
熊野加武呂乃命と熊野大神命は同じ神?
ここからは少し難しくなります。
意宇郡には熊野加武呂乃命、 島根郡には熊野大神命が登場します。
両者を同一神とみる考えがあります。
さらに現在の熊野大社では、 熊野大神と須佐之男命との関係も非常に深く、 熊野加武呂乃命を須佐能袁命と同一視する解釈もあります。
しかし、 『出雲国風土記』本文そのものが 「熊野加武呂乃命=須佐能袁命」と明記しているわけではありません。
そのため本ブログでは、
熊野加武呂乃命
熊野大神命
須佐能袁命
をいったん別項目として残し、 「同一視する説がある」 と注記する方法を採用します。
阿遅須枳高日子命と阿遅須枳高日子根命
これも注意したい例です。
『出雲国風土記』では基本的に 阿遅須枳高日子命 という神名で登場します。
一方、 『古事記』など他の古典では、 阿遅志貴高日子根神・阿遅須枳高日子根命など、 「根」を含む神名が知られています。
同系統の神と考えられていますが、 記事中では 『出雲国風土記』に実際に記された名称を基本表記 とします。
つまり、
阿遅須枳高日子命=風土記での基本表記
阿遅須枳高日子根命など=他文献での異称
という分け方です。
神名の「比売・日女・比女」はどう扱う?
女神の名前では、 「比売」「日女」「比女」などの表記が見られます。
これらは、 別の女神を意味するとは限りません。
たとえば、 天御梶日女命と天御梶比売命、 綾門日女命と綾門比女命などは、 本文・写本・校訂による表記違いとして整理できます。
ブログでは、 一つの表記を基本名として採用し、 ほかは「異表記」欄へ入れる方法が分かりやすいでしょう。
異称なのか別神なのかを判断する基準
| 判定 | 扱い | 代表例 |
|---|---|---|
| 本文上ほぼ同一 | 一柱としてまとめる | 大穴持命/所造天下大神 |
| 尊称が付いただけ | 一柱としてまとめる | 須佐能袁命/神須佐能袁命 |
| 漢字・写本の表記差 | 一柱としてまとめる | 阿遅須枳高日子命/阿遅須伎高日子命 |
| 本文で別称と分かる | 一柱としてまとめる | 天津枳値可美高日子命/薦枕志都治値 |
| 他文献では同一神 | 異称欄に注記 | 阿遅須枳高日子命/阿遅須枳高日子根命 |
| 研究上、同一視する説がある | 別項目のまま残す | 熊野加武呂乃命/須佐能袁命 |
| 名前が似ているだけ | 別神として扱う | 大国魂命/大穴持命 |
なぜ異称を整理する必要があるのか
異称を整理しないまま神名を数えると、 同じ神を二柱、三柱と重複して数えてしまいます。
逆に、 名前が似ている神を安易に統合すると、 『出雲国風土記』独自の神々の姿を消してしまいます。
そこで当ブログでは、
・本文で同一性が読み取れる
・尊称だけが異なる
・文字表記だけが違う
場合は一柱にまとめ、 研究上の同一神説にとどまるものは別項目として残します。
3つの記事を合わせると『出雲国風土記』の神々が見えてくる
ここまで、 『出雲国風土記』の神々を3つの方向から整理してきました。
第1部では、 本文の神話や地名由来に実際に登場する神。
第2部では、 399社の神社条・社名から見えてくる神や神格。
そして今回の第3部では、 異称・別名・表記違いによって 同じ神を重複して数えないための整理を行いました。
この3つを分けて見ることで、
「本文に本当に名前がある神」
「神社の名前から存在が見える神」
「別名のため同じ神として数えるべき神」
の違いが分かります。
まとめ|神名の違いは古代出雲を読み解く手掛かり
『出雲国風土記』の神名は、 単純な「神様の名前一覧」ではありません。
大穴持命が「所造天下大神」と呼ばれることには、 この神が古代出雲でどのような存在と考えられていたのかが表れています。
須佐能袁命に「神」が付くこと、 女神の名に「日女」「比売」といった表記の違いがあることも、 古代の神名のあり方を考える手掛かりになります。
そして、 熊野加武呂乃命や大国魂命のように、 簡単には同一神と断定できない例があることも重要です。
違う名前だから別の神とは限らない。
似た名前だから同じ神とも限らない。
その違いを一つずつ確認していくことが、 『出雲国風土記』に記された古代出雲の神々を理解する第一歩なのかもしれません。
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『出雲国風土記』に登場する神様一覧|本文に現れる神々を整理→ 本文の神話・地名由来・系譜などに実際に登場する神を整理。
参考:『出雲国風土記』本文、島根県古代文化センター関連資料、
國學院大學古典文化学事業・神名データベース等。
※神名の異称・同一性には諸説があります。本記事では『出雲国風土記』本文での表記を優先しています。


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