『出雲国風土記』399社に残る神々|社名から読み解く古代出雲の信仰

2026年9月12日土曜日

古代出雲 出雲の神様 出雲国風土記 出雲国風土記掲載神社 出雲神話

『出雲国風土記』399社に残る神々|社名から読み解く古代出雲の信仰

『出雲国風土記』に記された399社の古社と社名に残る神々を表現した水墨画風イメージ
『出雲国風土記』に記された399社の神社から、本文の神話だけでは見えない古代出雲の信仰をたどります。画像はAI生成による水墨画風イメージです。

『出雲国風土記』には、大穴持命、須佐能袁命、神魂命など、 本文の地名説話や神話の中に直接名前が登場する神々がいます。

しかし、それだけが『出雲国風土記』に残された神々ではありません。

もう一つ注目したいのが、 九つの郡に記された神社一覧の「社名」です。

『出雲国風土記』総記には、 神社399所が記されたとされます。 そのうち184所は神祇官に在り、 215所は神祇官に在らない社とされています。

これらの神社名を追っていくと、 本文の地名説話や神話には独立して登場しないにもかかわらず、 社名・神格・御子神という形で信仰の痕跡が残る例が見えてきます。

この記事の位置づけ
この記事は、「『出雲国風土記』に登場する神様一覧」の第2部です。

① 本文の物語・地名由来などに実際に登場する神
② 神社一覧・社名の中から読み取れる神・神格 ← 今回
③ 同一神と考えられる異称・別名

の3つに分けて整理しています。
『出雲国風土記』の神々を3つの視点から整理しています

① 『出雲国風土記』に登場する神様一覧|本文に現れる神々を整理
→ 本文の神話・地名由来・系譜などに実際に登場する神を整理。

② 『出雲国風土記』399社に残る神々|社名から読み解く古代出雲の信仰
→ 神社条や社名から見えてくる神・神格・信仰の痕跡を整理。←今回はこの記事

③ 『出雲国風土記』神々の異称・別名一覧|大穴持命と所造天下大神は同じ神?
→ 同じ神の異称・別名・表記違いと、同一神説のある神々を整理。

なぜ「神社名」から神々を調べるのか

『出雲国風土記』は神話集ではありません。

国の地形、郡、郷、山、川、産物、交通路などを記した地誌ですが、 出雲国については各郡ごとに大量の神社が列記されています。

つまり、物語の中では名前が語られなくても、 「この土地には、この神に関係する社があった」 という痕跡が神社名の中に残る場合があります。

そのため、本文だけを読んだ場合と、 神社一覧まで含めて読んだ場合では、 見えてくる古代出雲の信仰世界が大きく変わります。

『出雲国風土記』には399社が記録された

『出雲国風土記』総記には、 神社は合わせて399所と記されています。

区分 社数 意味
神祇官に在る社 184所 中央の神祇制度に把握されていた社
神祇官に在らない社 215所 地域の信仰として記録された社
合計 399所 『出雲国風土記』総記に記された総数

九郡それぞれの神社一覧については、 当ブログの総合ページから確認できます。

『出雲国風土記』9郡・掲載神社399社をたどる総合ページ

注意:399社=現在確認できる社名399件、ではありません。

『出雲国風土記』の写本には欠落・重複・「同社」という省略表記などがあり、 現存本文を機械的に数えても399の固有社名が並ぶわけではありません。

また、現在使われている神社名や『延喜式神名帳』の社名を、 そのまま733年の『出雲国風土記』の表記として扱うこともできません。

社名を見るときに注意したい3つの型

1.神名そのものに近い社名

神社名の中には、 その社で信仰された神格や神名を強く反映していると考えられるものがあります。

ただし、 現在の祭神名がそのまま『出雲国風土記』成立時から変わらず伝わった、 とまでは断定できません。

2.「御子」「御魂」など神格だけを示す社名

出雲郡では、 「御魂社」や、 同一社を示す「同社」という表記が多く見られます。

この場合、 風土記本文だけでは具体的にどの神を指すのか分からないことがあります。

後世の『延喜式』や現在の比定社では、 「神魂御子神社」「大穴持御子神社」などの名称に対応すると考えられる例がありますが、 後世の名称と風土記本文の名称は分けて考える必要があります。

実際に現在の大穴持御子神社(三歳社)については、 こちらの記事で紹介しています。

大穴持御子神社(三歳社)|事代主神・高比売命・御年神を祀る出雲大社境外摂社

3.地名なのか神名なのか判断が難しい社名

さらに難しいのが、 社名が土地の名前なのか、 祀られた神の名前なのか判別しにくいケースです。

たとえば出雲郡には、 伊努社、意保美社、阿受伎社、美佐伎社、阿我多社、 都牟自社、宇加社、神代社など、 多数の古い社名が列記されています。

これらをすべて、 「同名の神がいた」 と解釈してしまうのは危険です。

社名、地名、祭神、後世の比定を分離して見なければなりません。

出雲郡では「同社」が非常に多い

この問題が最もよく分かるのが出雲郡です。

出雲郡の神社条には、 杵築大社、御魂社、御向社、出雲社、伊努社、 阿受伎社、美佐伎社などが記された後、 「同社」という表記が繰り返し現れます。

特に阿受伎社は、 風土記の中で多数の社が記されたことで知られています。

現在は阿須伎神社にまとめられていますが、 古代には同系統の信仰が多数の社に展開していたことをうかがわせます。

出雲郡の全社一覧はこちらです。

『出雲国風土記』出雲郡の寺院と神社一覧

「現在の祭神」をそのまま古代の神としない

風土記掲載社を調べると、 現在の神社には祭神が明記されています。

しかし、現在の祭神が分かっているからといって、 その神名をそのまま 「『出雲国風土記』の社名にだけ登場する神」 として追加することはしません。

千年以上の間には、 祭神の変更、合祀、勧請、神名の読み替え、 『古事記』『日本書紀』との習合などが起こり得るからです。

この記事では、 風土記本文で確認できる情報と、後世の比定・現在祭神を分離する ことを基本方針としています。

「御魂社」は誰を祀った社なのか

出雲郡の神社一覧には「御魂社」という名称が複数登場します。

現在では、 大穴持神社、神魂伊能知奴志神社、 神魂御子神社、伊能知比売神社など、 出雲大社周辺の摂末社との関係が論じられています。

しかし、 風土記の「御魂社」という記載だけから、 祭神を一柱に固定することはできません。

当ブログでは現在の比定社を実際に訪ねています。

神魂伊能知奴志神社(命主社)

御魂社(伊能知比売神社・天前社)

本文に出る神と、社名から見える神は分けて考える

ここまで整理すると、 『出雲国風土記』の神々には、 少なくとも二つの見え方があることが分かります。

分類 特徴 例
本文に登場する神 地名由来・神話・系譜などで神名が直接記される 大穴持命、須佐能袁命、神魂命など
神社条から見える神・神格 社名、御魂、御子、後世の比定などを通じて信仰が見える 御魂社、同社、阿受伎社群など

この2つを混ぜずに整理することで、 「本文に名前があるから確実」 「現在の祭神から推定されている」 「社名から信仰の存在が見える」 という違いが分かりやすくなります。

399社は古代出雲の「信仰地図」

399社という数字の面白さは、 単に神社が多いということだけではありません。

神祇官に把握された社だけでなく、 それ以外の地域の社まで大量に記録されているところにあります。

そこには、 中央の神話体系だけでは見えない、 地域ごとの小さな信仰や土地と神との関係が残されています。

本文に名前が現れない神であっても、 社名や祭祀の痕跡を追うことで、 古代出雲の人々がどの土地で何を祀っていたのかを考える手掛かりになります。

九郡の神社一覧から探す

『出雲国風土記』の神社は、 意宇郡・嶋根郡・秋鹿郡・楯縫郡・出雲郡・神門郡・飯石郡・仁多郡・大原郡の 九郡に分けて記されています。

当ブログでは、 風土記社名、現在の比定社、所在地、 参拝済みの場合は個別記事へのリンクを郡ごとに整理しています。

九郡・掲載神社399社の総合索引はこちら

飯石郡の一覧はこちらです。

飯石郡の寺院と神社一覧

まとめ|神社名にも『出雲国風土記』の神々は残っている

『出雲国風土記』に登場する神を調べるとき、 神話や地名由来の本文だけを見ていると、 見落としてしまう信仰があります。

その手掛かりとなるのが、 九郡に列記された神社です。

一方で、 社名・現在祭神・『延喜式』の神社名・現在の比定社を すべて同じものとして扱うこともできません。

だからこそ、

① 本文に実際に登場する神
② 神社条・社名から見える神や神格
③ 異称・別名によって同一神と考えられるもの

の3つに分けて整理することが重要になります。

次は異称・別名の整理へ

『出雲国風土記』神々の異称・別名一覧|大穴持命と所造天下大神は同じ神?
→ 同じ神の異称・別名・表記違いと、同一神説のある神々を整理。

参考:『出雲国風土記』本文、国立公文書館所蔵写本、 島根県古代文化センター関連資料、國學院大學関連資料等。
※神社名・比定社・祭神には諸説があります。本記事では風土記本文の表記と現在の比定を区別して記載しています。

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