【出雲国風土記】大原郡の郷里と駅家|雲南市大東町・木次町 ほか

2021年2月21日日曜日

雲南市 出雲国風土記 出雲神話 大原郡

【出雲国風土記】大原郡の郷里と駅家|雲南市大東町・木次町 ほか

出雲国風土記では、大原郡について八つの郷と二十四の里、そして郡家(ぐうけ)や駅家の位置がとても詳しく語られています。
本記事では、神原郷・屋代郷・屋裏郷・佐世郷・阿用郷・海潮郷・來次郷・斐伊郷の名前の由来と伝承を、現代の地名や景観と見比べながら整理しました。
郡家跡とされる斐伊川沿いの平野や、阿用郷の風土記登場地標柱の写真もあわせてご紹介します。

扉写真

大原郡郷里驛家の風土記登場地標柱。雲南市阿用郷の田園地帯に建てられた石柱と周辺の平野のようす。

出雲国風土記登場地標柱「大原郡 郷里驛家」。郡家・駅家が置かれたと伝わる平野の一角に建っています。

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大原郡の概要と「大原」という地名

出雲国風土記の大原郡条では、まず「郷八・里二十四」と郡内の行政区画を示したうえで、郡名である「大原」の由来が丁寧に説明されています。
郡家の北東一十里百十六歩ほど離れた平原に田十町があり、その広い原野を指して「大原」と名づけたこと、そして往古にはこの地に郡家が置かれていたことが記されています。
現在でも斐伊川流域の平野部には「大原」の地名が残り、郡家跡と伝える「斐伊村」など、風土記時代とのつながりを感じさせる地名が点在しています。

大原郡の八郷と里の名前

大原郡には、次の八つの郷が置かれていました(カッコ内は風土記本文に見える元の表記・意味)。
神原郷(神財郷)・屋代郷(矢代)・屋裏郷(矢内)・佐世郷・阿用郷(阿欲)・海潮郷(得鹽)・來次郷・斐伊郷(樋)。
それぞれの郷名に、神々の宝を積んだ地・矢を射た場所・笶を植えた場所・佐世の木の葉の伝承・目一つの鬼の説話・御祖神を巡る海潮の物語など、多彩な伝承が結びついています。

出雲国風土記「大原郡」の国の特別記事(原文)

大原郡 郷里驛家

出雲国風土記登場地標柱 阿用郷
大原郡(おほはらのこほり)

合はせて(さと)八、(こざと)二十四。

 (かむ)(はら)(のさと) 今も前に依りて用ゐる。

 屋代(やしろ) (もと)矢代(やしろ)

 ()(うち) (もと)の字は矢内(やうち)

 ()() 今も前に依りて用ゐる。

 ()() (もと)の字は()()

 ()(しほ) (もと)の字は()(しほ)

 來次(きすき) 今も前に依りて用ゐる。

 斐伊() (もと)の字は()

   以上八、郷別(さとごと)(こざと)

大原(おほはら)(なづ)くる所以(ゆゑ)は、郡家(ぐうけ)の東北一十里一百一十六歩に、田一十町(ばかり)ありて、平原(はら)なり。(かれ)(なづ)けて大原と()往古之時(いにしへ)、此の處に郡家(ぐうけ)ありき。今猶(もと)のままに大原(おほはら)(なづ)。今郡家のある所は、()斐伊()(のむら)といふ

(かむ)(はら)(のさと)郡家(ぐうけ)正北(まきた)九里なり。古老へにへらく、所造天下大神(あめのしたつくらししおほかみ)神御財(かむみたから)ひしなれば、(かむ)(たから)(のさと)()ふべきを、人猶誤りて原郷と云ふのみ

屋代(やしろ)(のさと)。郡家北一十里一百一十六歩なり。所造天下大神(あむつち)ててたまひしなり(かれ)矢代と云ふ。神龜三年に、屋代と改む。卽正倉あり

()(うち)(のさと)。郡家東北一十里一百六十歩なり古老の傳へに云へらく、所造天下大神()()てしめひしなり(かれ)矢内(やうち)と云ふ神龜三年に、字を屋裏と改む。

()()(のさと)郡家正東(まひがし)九里二百歩なり古老の傳へに云へらく、須佐能袁(すさのを)(のみこと)()()(かざ)して踊躍(おど)りたまふに、()せさる佐世の木の葉、地に()ちき(かれ)佐世と云ふ

()()(のさと)。郡家東南一十三里八十歩なり古老の傳へに云へらく、昔、或る人、此の處の山田(つく)りて()りき()目一つの鬼來て、佃人(たつくるひと)(をのこ)()へり。()の時、(をのこ)父母竹原(かく)れてりき(あよ)げり()()はえし(をのこ)、「動々(あよあよ)と云ひき(かれ)()()と云ふ神龜三年に、字を阿用と改む。

海潮(うしほ)(のさと)郡家(ぐうけ)正東(まひがし)一十六里三十三歩なり古老の傳へに云へらく、宇能治比古命(うのぢひこのみこと)御祖(みおや)須我禰命(すがねのみこと)(うら)みて、、出雲の海潮(うしほ)げて、御祖神(みおやのかみ)(ただよ)はししとき、海潮(うしほ)りき(かれ)得鹽(うしほ)と云ふ神龜三年に、字を海潮と改む。 東北須我小川湯淵村(ゆぶちのむら)川中(かはぬち)温泉(いでゆ)あり()を用ゐず。(かみ)の、毛間村(けまのむら)川中にも温泉()()を用ゐず。

來次(きすき)(のさと)。郡家正南(まみなみ)八里なり所造天下大神命(あめのしたつくらししおほかみのみこと)()りたまひしく、「八十(やそ)(がみ)靑垣山(おをがきやま)(うち)に置かじ」と()りたまひて、()(はら)ひたまふに、の處に迢次(きす)()しき(かれ)來次(きすき)と云ふ

斐伊()(のさと)。郡家()けり樋速日子命(ひはやひこのみこと)、此の處に()せり(かれ)()と云ふ神龜三年に、字を斐伊と改む。

以下では、大原郡各郷に関係する現地の写真。

雲南市大東町・海潮温泉の御祖神を巡る海潮の物語のある海潮温泉碑。温泉街の一角に建ち、海潮の御祖神伝承と温泉の歴史を伝えている。

御祖神を巡る海潮の物語のある海潮温泉碑(雲南市大東町・海潮温泉)。

雲南市大東町・神原神社の社殿。『神々の宝を積んだ地』と伝えられる森に囲まれ、御祖神ゆかりの伝承地として祀られている。

神々の宝を積んだ地とされる神原神社(雲南市大東町)。

雲南市大東町・加茂神社の境内。笶を植えた場所に比定される社で、社殿背後の丘陵地形に御祖神伝承の舞台が重なる。

笶を植えた場所と伝わる加茂神社(雲南市大東町)。

佐世の木の葉の伝承が残る佐世の森。

佐世の木の葉の伝承地・佐世の森。

アクセス・周辺案内

大原郡郷里驛家の風土記登場地標柱(阿用郷)は、現在の雲南市大東町阿用付近にあります。
最寄りはJR木次線「出雲大東駅」周辺で、駅から阿用方面へ車で約10分です。

お問い合わせ

所在地 島根県雲南市大東町・木次町・吉田町周辺(大原郡域一帯)
TEL 雲南市役所雲南市観光協会(うんなん観光ネット)
※郷名の比定地・標柱位置などは教育委員会文化財保護担当が所管の場合があります。
駐車場 阿用郷(風土記登場地標柱)周辺に小規模駐車スペースあり。
そのほか各郷の史跡は専用駐車場がない場合が多く、付近の公共施設・路肩に注意して利用。
備考 大原郡域には農道・河川敷・私有地が多く、立ち入り禁止区域があります。
撮影や探索の際は現地の案内板・所有者・農作業車両に十分ご配慮ください。

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タグ:出雲国風土記大原郡風土記登場地

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