【出雲国風土記】大原郡の郷里と駅家|雲南市大東町・木次町 ほか
出雲国風土記では、大原郡について八つの郷と二十四の里、そして郡家(ぐうけ)や駅家の位置がとても詳しく語られています。
本記事では、神原郷・屋代郷・屋裏郷・佐世郷・阿用郷・海潮郷・來次郷・斐伊郷の名前の由来と伝承を、現代の地名や景観と見比べながら整理しました。
郡家跡とされる斐伊川沿いの平野や、阿用郷の風土記登場地標柱の写真もあわせてご紹介します。
出雲国風土記登場地標柱「大原郡 郷里驛家」。郡家・駅家が置かれたと伝わる平野の一角に建っています。
大原郡の概要と「大原」という地名
出雲国風土記の大原郡条では、まず「郷八・里二十四」と郡内の行政区画を示したうえで、郡名である「大原」の由来が丁寧に説明されています。
郡家の北東一十里百十六歩ほど離れた平原に田十町があり、その広い原野を指して「大原」と名づけたこと、そして往古にはこの地に郡家が置かれていたことが記されています。
現在でも斐伊川流域の平野部には「大原」の地名が残り、郡家跡と伝える「斐伊村」など、風土記時代とのつながりを感じさせる地名が点在しています。
大原郡の八郷と里の名前
大原郡には、次の八つの郷が置かれていました(カッコ内は風土記本文に見える元の表記・意味)。
神原郷(神財郷)・屋代郷(矢代)・屋裏郷(矢内)・佐世郷・阿用郷(阿欲)・海潮郷(得鹽)・來次郷・斐伊郷(樋)。
それぞれの郷名に、神々の宝を積んだ地・矢を射た場所・笶を植えた場所・佐世の木の葉の伝承・目一つの鬼の説話・御祖神を巡る海潮の物語など、多彩な伝承が結びついています。
出雲国風土記「大原郡」の国の特別記事(原文)
大原郡 郷里驛家
合はせて郷八、里二十四。
神原郷 今も前に依りて用ゐる。
屋代郷 本の字は矢代。
屋裏郷 本の字は矢内。
佐世郷 今も前に依りて用ゐる。
阿用郷 本の字は阿欲。
海潮郷 本の字は得鹽
來次郷 今も前に依りて用ゐる。
斐伊郷 本の字は樋。
以上八、郷別に里三。
大原と號くる所以は、郡家の東北一十里一百一十六歩に、田一十町許ありて、平原なり。故、號けて大原と曰ふ。往古之時、此の處に郡家ありき。今猶舊のままに大原と號く。今、郡家のある所は、號を斐伊村といふ。
神原郷。郡家の正北九里なり。古老の傳へに云へらく、所造天下大神の神御財積み置き給ひし處なれば、則ち謂神財郷と謂ふべきを、今の人猶誤りて神原郷と云ふのみ。
屋代郷。郡家の正北一十里一百一十六歩なり。所造天下大神の垜立てて射たまひし處なり。故、矢代と云ふ。神龜三年に、字を屋代と改む。卽ち正倉あり。
屋裏郷。郡家の東北一十里一百六十歩なり。古老の傳へに云へらく、所造天下大神、笶を殖てしめ給ひし處なり。故、矢内と云ふ。神龜三年に、字を屋裏と改む。
佐世郷。郡家の正東九里二百歩なり。古老の傳へに云へらく、須佐能袁命、佐世の木の葉を頭㓨して踊躍りたまふ時に、㓨せさる佐世の木の葉、地に墮ちき。故、佐世と云ふ。
阿用郷。郡家の東南一十三里八十歩なり。古老の傳へに云へらく、昔、或る人、此の處の山田を佃りて守りき。爾の時、目一つの鬼來て、佃人の男を食へり。爾の時、男の父母、竹原の中に隱れて居りき。時に竹の葉動げり。爾の時、食はえし男、「動々」と云ひき。故、阿欲と云ふ。神龜三年に、字を阿用と改む。
海潮郷。郡家の正東一十六里三十三歩なり。古老の傳へに云へらく、宇能治比古命、御祖須我禰命を恨みて、北の方、出雲の海潮を押し止げて、御祖神を漂はししとき、此の海潮に至りき。故、得鹽と云ふ。神龜三年に、字を海潮と改む。 卽ち東北、須我小川の湯淵村の川中に温泉あり。號を用ゐず。同じ川の上の、毛間村の川中にも温泉出づ。號を用ゐず。
來次郷。郡家の正南八里なり。所造天下大神命、詔りたまひしく、「八十神は靑垣山の裏に置かじ」と詔りたまひて、追ひ廢ひたまふ時に、此の處に迢次き坐しき。故、來次と云ふ。
斐伊郷。郡家に屬けり。樋速日子命、此の處に坐せり。故、樋と云ふ。神龜三年に、字を斐伊と改む。
現地写真ギャラリー
以下では、大原郡各郷に関係する現地の写真。
御祖神を巡る海潮の物語のある海潮温泉碑(雲南市大東町・海潮温泉)。
神々の宝を積んだ地とされる神原神社(雲南市大東町)。
笶を植えた場所と伝わる加茂神社(雲南市大東町)。
佐世の木の葉の伝承地・佐世の森。
アクセス・周辺案内
大原郡郷里驛家の風土記登場地標柱(阿用郷)は、現在の雲南市大東町阿用付近にあります。
最寄りはJR木次線「出雲大東駅」周辺で、駅から阿用方面へ車で約10分です。
お問い合わせ
| 所在地 | 島根県雲南市大東町・木次町・吉田町周辺(大原郡域一帯) |
|---|---|
| TEL |
雲南市役所/
雲南市観光協会(うんなん観光ネット) ※郷名の比定地・標柱位置などは教育委員会文化財保護担当が所管の場合があります。 |
| 駐車場 |
阿用郷(風土記登場地標柱)周辺に小規模駐車スペースあり。 そのほか各郷の史跡は専用駐車場がない場合が多く、付近の公共施設・路肩に注意して利用。 |
| 備考 |
大原郡域には農道・河川敷・私有地が多く、立ち入り禁止区域があります。 撮影や探索の際は現地の案内板・所有者・農作業車両に十分ご配慮ください。 |

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