【出雲国風土記】楯縫郡の寺院と神社一覧|新造院と佐加社ゆかりの社をたどる|松江市鹿島町・島根町 ほか

2021年2月15日月曜日

出雲国風土記 出雲市 出雲神話 楯縫郡

【出雲国風土記】楯縫郡の寺院と神社一覧|新造院と佐加社ゆかりの社をたどる|松江市鹿島町・島根町 ほか

出雲国風土記の楯縫郡条には、沼田郷に置かれた寺院「新造院」と、神祇官に属する九社、さらに「神祇官あらず」とされる十九社が記されています。
本記事では、これらの社寺を「寺院/神祇官に属する社/神祇官に属さない社」に分けて整理し、原文の記述と、現在の論社・比定地メモを併記しました。
佐香神社・宇美神社・葦原神社など、すでに個別記事のある社へのリンクも掲載していますので、楯縫郡エリアの参拝や史跡めぐりの下調べにご活用ください。


佐香神社 扁額
出雲国風土記の楯縫郡条に登場する佐加社の論社・佐香神社(松江市鹿島町)の拝殿に掲げられた扁額。「佐香神社」の社号が刻まれ、背後に社殿の一部が見える。

佐香神社拝殿の扁額。楯縫郡条の「佐加社」に比定される論社のひとつとされる。

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楯縫郡の概要と寺院・社の分布

楯縫(たてぬい)郡は、出雲国の北東部に位置し、現在の 松江市鹿島町・島根町から宍道湖畔にかけての一帯に比定される地域です。
日本海に面した入り江と、内陸へ続く丘陵・谷筋が入り組み、海上交通と陸路の結節点として重要な役割を担っていたと考えられます。

風土記の楯縫郡条には、沼田郷に置かれた寺院「新造院」一所、そして
・神祇官に属する社(九所)
・神祇官に属さない社(一十九所)
が挙げられており、古代のこの地域に、かなり密度の高い社寺ネットワークが存在していたことがうかがえます。

出雲国風土記 楯縫郡条に登場する葦原社の論社とされる葦原神社。鳥居から拝殿へと続く静かな石段の参道の全景。

葦原神社の鳥居と、拝殿へと続く石段の参道。楯縫郡条の「葦原社」をしのばせる、落ち着いた境内の雰囲気。

出雲国風土記に記される楯縫郡の宇美社の論社とされる宇美神社。社頭から鳥居・社号標・社殿方向を望む景観。

宇美神社の社頭。鳥居と社号標の向こうに社殿がのぞき、楯縫郡条の「宇美社」とのつながりを感じさせる。

出雲国風土記の佐加社の論社とされる佐香神社の拝殿。正面から社殿全体を見上げる構図。

佐香神社の拝殿正面。楯縫郡条「佐加社」の論社として知られ、現在も地域の崇敬を集めている。

出雲国風土記に記された寺院(楯縫郡)

新造院(しんぞういん)

新造院は、楯縫郡の沼田(ぬた)郷の中に置かれた寺院です。風土記には、
嚴堂(こんどう)を建立す」「郡家の正西六里一百六十歩」とあり、
楯縫郡の中心施設である郡家から西に、やや離れた位置に大きな伽藍が構えられていたことがわかります。
また、「大領(かみ)出雲臣大田(おほた)が造れる所なり」と記され、郡の長官クラスが深く関わった官寺的な性格をうかがわせます。
具体的な比定地は諸説ありますが、現在の松江市鹿島町・島根町の内陸部(沼田郷にあたる一帯)に関連づけて論じられています。

出雲国風土記の記載を読む(原文)

新造院しんざうのゐん一所。沼田ぬた郷の中にあり。 嚴堂こんだうを建立たつ。郡家ぐうけの正西まにし六里一百六十歩なり。 大領かみ出雲臣大田おほたが造れる所なり。

神祇官に属する社(九所)

楯縫郡では、次の九社が「以上九所は、並びに神祇官あり」と記されています。
出雲国の中でも、朝廷の神祇官に直結する格式の高い社が集中的に置かれていたことが分かります。

・久多美社(くたみのやしろ) ― 玖潭神社
・多久社(たくのやしろ) ― 多久神社
・佐加社(さかのやしろ) ― 佐香神社
・乃利斯社(のりしのやしろ) ― 能呂斯神社
・御津社(みつのやしろ) ― 御津神社
・水社(みづのやしろ) ― 水神社
・宇美社(うみのやしろ) ― 宇美神社
・許豆社(こづのやしろ) ― 許豆神社
・同社(おなじやしろ) ― 許豆神社(もう一社)

社名の読みや比定社名は、便宜上のものであり、複数の論社が挙げられる場合があります。

神祇官に属さない社(一十九所)

次に挙げられる一十九所は、「以上一十九所は、並びに神祇官にあらず」とまとめられています。
とはいえ、郡内の信仰を知るうえで欠かせない社々であり、村落レベルの古い祭祀を伝えている可能性も高いグループです。

・許豆乃社(こづののやしろ)
・又許豆社(またこづのやしろ)
・又許豆社(またこづのやしろ)
・久多美社(くたみのやしろ)
・同久多美社(おなじくたみのやしろ)
・高守社(たかもりのやしろ)
・又高守社(またたかもりのやしろ)
・紫菜嶋社(のりしまのやしろ)
・鞆前社(ともさきのやしろ)
・宿努社(すくぬのやしろ)
・埼田社(さきたのやしろ)
・山口社(やまぐちのやしろ)
葦原社(あしはらのやしろ)
・又葦原社(またあしはらのやしろ)
・又葦原社(またあしはらのやしろ)
・峴之社(みねのやしろ)
・阿牟知社(あむちのやしろ)
・葦原社(あしはらのやしろ)
・田々社(ただのやしろ)

「以上一十九所は、並びに神祇官にあらず」と結ばれていますが、
実際には、楯縫郡の村落社会を支えた重要な「氏神」「産土神」として機能していたと考えられます。

比定地・補足メモ

佐加社(佐香神社)……現在の佐香神社(松江市鹿島町佐陀宮内)を論社とする説が有力。
宇美社(宇美神社)……「宇美社(宇美神社)」として、すでに個別記事で紹介しています。
 → 【出雲国風土記】宇美社(宇美神社)
葦原社……楯縫郡条には「葦原社」「又葦原社」が複数登場し、現代の葦原神社(松江市鹿島町)との関係が議論されています。
 → 【出雲国風土記】葦原社(葦原神社)
・そのほかの社についても、郷名・川・海浜の記述と突き合わせながら、順次現地を歩きつつ整理していく予定です。

※ここで挙げた比定社・論社は一例です。複数候補がある場合や、現在は社名が変わっている場合もあります。

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アクセス・地図

地図(佐香神社周辺)

例:佐香神社(島根県松江市鹿島町佐陀宮内)周辺。楯縫郡ゆかりの社寺は、鹿島町・島根町・宍道湖沿岸などに点在しています。

お問い合わせ

所在地 島根県松江市鹿島町・島根町(楯縫郡域一帯)
※各社寺は広範囲に点在しています。
TEL 風土記に登場する古社・旧跡についての一般的な観光案内は、 松江市観光課松江観光協会 などにお問い合わせください。
駐車場 佐香神社・宇美神社・葦原神社など、各社に小規模駐車スペースあり。
※満車の場合は周辺の公共駐車場をご利用ください。
備考 古社の多くは山中・集落内に位置し、私有地が隣接する場合があります。
参道・境内の安全確保に十分ご注意の上、地域の生活に配慮して参拝ください。

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