神々はどこで何をする?神迎えから神等去出までをたどる
旧暦10月になると、全国の八百万の神々が出雲へ集まると伝えられます。けれども、神々は出雲のどこへ来て、どこに泊まり、何を相談し、最後はどこから旅立つのでしょうか。
この記事では、稲佐の浜の神迎神事から、出雲大社の十九社・上宮、万九千神社の直会と神等去出までを順にたどります。場所ごとの役割を知ると、神在祭が一夜だけの行事ではなく、神々を迎え、滞在をお祀りし、見送る一連の祭祀であることが見えてきます。
神々は稲佐の浜で迎えられ、出雲大社へ進み、十九社を宿所とし、上宮で神議りをすると伝えられます。出雲大社の神等去出祭の後も出雲に留まる神々があるとされ、万九千神社では神議りを締めくくって直会を催し、諸国へ旅立つと伝えられています。
出雲各地には朝山神社・日御碕神社・佐太神社など、それぞれ異なる神在祭の伝承があります。すべての神々が必ず一つの経路を同じ順番で移動する、という意味ではありません。
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神迎えから神等去出までの早見表
- 稲佐の浜で神々を迎える
御神火が焚かれる浜で神迎神事を行い、龍蛇神の導きによって八百万神を迎えると伝えられます。 - 出雲大社へお迎えする
神籬に宿られた神々を出雲大社へお連れし、神迎祭を行います。 - 十九社に滞在する
境内東西の十九社が、神在祭期間中の八百万神の宿所とされます。 - 上宮で神議りをする
神々は男女の縁に限らず、人と人、仕事、土地などさまざまな縁について神議りをすると伝えられます。 - 御本殿で神在祭が行われる
大国主大神のもとで神在祭や縁結大祭などの祭典が行われます。 - 出雲大社で神等去出祭を迎える
神々が出雲大社を発たれる時が来たことを奉告します。 - 万九千神社で直会と旅立ち
神議りを締めくくり、直会という神宴を催したのち、諸国へ旅立つと伝えられます。
1.稲佐の浜|八百万神を迎える
神迎神事の斎場
神在祭の始まりとして広く知られるのが、稲佐の浜の神迎神事です。夜の浜に斎場が設けられ、御神火が焚かれるなか、神職が神々をお迎えします。
浜では龍蛇神が神々を先導すると伝えられます。神々は目に見える姿で現れるのではなく、神籬にお迎えされます。そのため神迎神事は、華やかな祭典というより、暗い海と御神火のもとで行われる静かで厳かな神事です。
稲佐の浜は『出雲国風土記』にも記された海岸につながる場所ですが、現在の神迎神事の形が風土記本文に説明されているわけではありません。
2.神迎祭|神々を出雲大社へお迎えする
稲佐の浜で迎えられた神々は、神籬を先頭に出雲大社へお迎えされます。出雲大社では神迎祭が行われ、八百万神の到着を大国主大神へ奉告します。
浜の神迎神事と出雲大社の神迎祭は、場所も役割も異なります。浜では海から神々をお迎えし、出雲大社では境内へお迎えした神々を正式にお祀りする、という流れです。
3.十九社|八百万神が滞在する
東西の十九社は神々の宿所
出雲大社の御本殿を囲む荒垣の東西には、「十九社」と呼ばれる細長い社殿があります。出雲大社公式サイトでは、神在祭の間、全国各地から集まった神々の宿所になる社と説明されています。
通常は全国の神々を遥拝する場所ですが、神在祭の期間には御扉が開かれ、十九社祭などが行われます。「神々は出雲のどこに泊まるのか」という問いに対する、出雲大社の伝承上の答えが十九社です。
「十九」という数を、全国の神々が十九柱だけ滞在するという意味に取る必要はありません。東西の十九社全体が、八百万神の御宿としてお祀りされます。
4.上宮|神々が神議りをする
御本殿ではなく、上宮が神議りの場所
全国から集まった神々が話し合いを行う場所と伝えられるのが、稲佐の浜と出雲大社の間に鎮座する上宮です。「神々の会議は出雲大社の御本殿で行われる」と思われがちですが、出雲大社の公式案内では、上宮が神議りの御社とされています。
神議りで話し合われる「縁」は、男女の縁だけではありません。人と人との結び付き、仕事や土地との縁、さまざまな巡り合わせを含む広い意味の「むすび」として信仰されています。
上宮は住宅地の近くにある小さな社です。神在祭期間中も、道路をふさいだり大声で話したりせず、神議りを妨げない気持ちで静かに参拝します。
5.御本殿|神在祭と縁結大祭
神在祭期間中、出雲大社の御本殿では神在祭や縁結大祭などの祭典が行われます。大国主大神のもとへ八百万神が集い、人々の幸縁を祈る期間です。
十九社が「滞在する場所」、上宮が「神議りをする場所」、御本殿が「神在祭を奉仕する中心」と考えると、それぞれの役割を整理しやすくなります。
| 場所 | 伝承・祭祀上の役割 |
|---|---|
| 稲佐の浜 | 全国の神々を迎える |
| 十九社 | 神々が滞在する宿所 |
| 上宮 | 神々が神議りをする |
| 御本殿 | 神在祭・縁結大祭などを奉仕する |
6.出雲大社の神等去出祭|神々が大社を発つ
神在祭の最終日、出雲大社では神等去出祭が行われます。「神等去出」は「からさで」と読み、神々が出立されることを表す言葉として伝えられます。
ここで注意したいのは、出雲大社の神等去出祭をもって、すべての神々がただちに出雲国を離れると一つに決め付けないことです。神々は出雲大社を発ったのち、出雲各地へ向かわれるとも伝えられ、万九千神社には神々が最後に立ち寄るという独自の伝承があります。
出雲大社では、神在祭最終日の神等去出祭とは別に、後日「第二神等去出祭」も行われます。2026年は11月25日に神等去出祭、12月4日に第二神等去出祭が予定されています。
7.万九千神社|神議りの締めくくりと直会
神々の宴と旅立ちの杜
万九千神社には、八百万神が出雲での神議りを締めくくり、直会という神宴を催したのち、諸国へ旅立つという伝承があります。旧暦10月17日から26日までを「神在」または「お忌み」としてお祀りします。
旧暦17日の早朝には、斐伊川の水辺で神迎えにあたる龍神祭が非公開で行われます。旧暦26日には湯立神事に続いて神等去出神事が行われ、神々はその晩に直会を催し、翌朝早く各地へ帰途につかれると伝えられます。
神等去出神事では、宮司が梅の小枝で幣殿の戸を叩き、「お立ち」と三度唱える特殊な所作が伝わります。鎮座地周辺の「神立」という地名も、神々のお立ちに由来すると語られています。
万九千社は、『出雲国風土記』の「神代社」が後の万九千社にあたると伝えられます。現在は立虫神社の境内社ですが、風土記に記された「神代社」と「立虫社」は別々の社です。
出雲には、ほかにも異なる神在祭の伝承がある
この記事では、稲佐の浜・出雲大社・万九千神社を中心に、神迎えから神等去出までの流れを整理しました。しかし、出雲の神在祭はこの三か所だけではありません。
- 朝山神社:旧暦10月1日から10日まで、神々を最初に迎えると伝えます。
- 日御碕神社:旧暦10月11日から17日まで、神迎祭・龍蛇神社祭・神送祭を伝えます。
- 佐太神社:11月20日から25日まで「お忌祭り」を行い、11月30日に止神送神事を行います。
五社の違いについては、「出雲の神在祭を行う神社|朝山・日御碕・出雲大社・佐太・万九千の伝承」で比較しています。
この流れは『出雲国風土記』に書かれている?
天平5年(733)に成立した『出雲国風土記』には、旧暦10月に全国の神々が稲佐の浜へ到着し、十九社に泊まり、上宮で神議りをして万九千神社から旅立つ、という現在の形の神在月伝承は記されていません。
ただし、風土記の杵築郷条には、大穴持命の宮を築くために神々が集まったという地名由来があります。また、出雲大社は「杵築大社」、万九千社は「神代社」が後の社にあたると伝えるなど、現在の祭祀の場所は風土記に記された古代の信仰世界と重なります。
古代の記述と現在の祭祀を同一視せず、時代ごとの伝承として見ることが大切です。詳しくは、「『出雲国風土記』に神在月は書かれている?」をご覧ください。
2026年の神迎えから神等去出まで
| 日付 | 場所 | 祭典・伝承上の流れ |
|---|---|---|
| 11月18日 19時 | 稲佐の浜・出雲大社 | 神迎神事・神迎祭 |
| 11月19日 9時 | 出雲大社 | 神在祭 |
| 11月23日 10時 | 出雲大社 | 献穀祭・神在祭・縁結大祭 |
| 11月25日 10時 | 出雲大社 | 神在祭・縁結大祭 |
| 11月25日 16時 | 出雲大社 | 神等去出祭 |
| 11月25日~12月4日 | 万九千神社 | 神在祭・お忌み |
| 12月4日 | 万九千神社 | 大祭・湯立神事・神等去出祭 |
| 12月4日 16時 | 出雲大社 | 第二神等去出祭 |
参列方法、交通規制、駐車場については、「【2026年】出雲の神在月はいつ?」にまとめています。
神在祭をたどるときの参拝マナー
- 非公開神事へ立ち入らない:万九千神社の龍神祭など、神職だけで行われる神事があります。
- 撮影可否をその場で確認する:祭典中は撮影禁止や撮影場所の制限が設けられる場合があります。
- 静粛を守る:神在祭は神々の滞在を慎んでお祀りする「お忌み」の期間でもあります。
- 上宮周辺では生活道路に配慮する:住宅地に近いため、路上駐車や大声での会話を避けます。
- 日程を詰め込みすぎない:神迎え・滞在・神送りは複数日にわたります。場所の役割を意識してゆっくり参拝します。
あわせて読みたい
神迎えから神等去出までのよくある質問
Q.神々は出雲大社のどこに泊まりますか?
A.出雲大社境内東西の十九社が、神在祭期間中の八百万神の宿所と伝えられます。
Q.神々の会議は御本殿で行われますか?
A.出雲大社の公式案内では、上宮が神々の神議りの場所とされています。御本殿では神在祭や縁結大祭などが行われます。
Q.出雲大社の神等去出祭で神在月は終わりますか?
A.出雲大社を発つ神事の後も、万九千神社など出雲各地へ向かわれる神々があると伝えられます。万九千神社では旧暦26日に神等去出祭を行います。
Q.万九千神社では神々は何をしますか?
A.出雲での神議りを締めくくり、直会という神宴を催したのち、諸国へ旅立つと伝えられています。
まとめ|場所の役割を知って神在月を歩く
稲佐の浜は神々を迎える場所、十九社は滞在する場所、上宮は神議りの場所、御本殿は神在祭の中心です。そして出雲大社の神等去出祭を経て、万九千神社では直会と諸国への旅立ちが伝えられています。
神在祭は、神々が集まるという物語だけではありません。迎える場所、滞在をお祀りする場所、話し合う場所、見送る場所が、それぞれの土地に残されています。その違いを知って歩くと、神在月の出雲が一つの大きな祭祀空間として見えてきます。

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